ONCE REPORT '96


バーチャルクラスルーム・オン・ザ・ネット

高橋 章 中山町立豊田小学校

1.はじめに

 昨年の10月から今年の2月上旬まで,私は担任していた3年1組の子どもたちと「バーチャルクラスルーム・オン・ザ・ネット」という国際的なプロジェクトに参加させていただいた。これは,日本の学校1校と海外の学校2校が一組みになって,インターネット上に仮想教室をつくり,共同のテーマで3校が協力して活動していくというものである。

 本校は,カナダの Wawanesa School とエクアドルの Evergreen International School とチームを組むことになった。それぞれの学校の担当者を介して,子ども達が取り組んでみたいテーマを話し合って,作業を分担しながらその成果をインターネットに発表することになっていた。

 事務局のスケジュールでは,・自己紹介・テーマの絞り込み・共同作業・自己評価という,おおまかな計画が示されていたが,実際の取り組みは問題が山積であった。

2.プライバシーと英語

 最初の自己紹介から問題が発生した。事務側から学校や担任,子ども達の自己紹介文や写真を準備ほしいというメールが届けられた。実際は,事務局のホストコンピュータの中のディレクトリ内で自己紹介を行うものであったが,インターネット上の活動と思い込んでいたこともあり,子ども達のプライバシーの保護の観点から疑問点が残り,躊躇してしまった。

 そこで,事務局と話し合って,子ども達の写真はグループ毎の写真にし,子ども達の氏名も名前だけを使うことにして,学校の様子も紹介しながら一番目の自己紹介が始まった。

 しかし,英文での自己紹介やコミュニケーションは,私の想像をはるかに超えて難題でだった。今回のプロジェクトでは,英語でコミュニケーションをとることになっていた。海外の2校は英語圏なので,子ども達は自分で書き込みができるが,本校の子ども達の文章は私が英訳しなければならなかった。

 私自身も大学以来の英語の勉強をする羽目になり,中学生用の和英辞典を片手に連日連夜悪戦苦闘していた。このプロジェクトがクラス単位の参加ということもあり,英訳や和訳ソフトを購入する十分な予算がなかった。自己紹介も遅れがちになってしまい,事務局からも心配のメールが届いたりしたので,英訳ソフトだけは手に購入れることにして,自己紹介を続けることにした。

 後日見た記事であるが,学研の雑誌NEW4月号に紹介されていた先生は,地域の帰国子女のお母さんや英語塾の先生など,8人のボランティアの方にお手伝いしていただいたと言う。私も英語専修の同僚にも応援を頼もうかとも考えたが,お互い毎日の授業もあり,同僚に頼むことは現実的には難しかった。

 これから海外との交流を考えた場合,英語の壁が障害になることは予想される。市販の翻訳ソフトの性能向上と低価格化が期待されるが,「地域に開かれた学校」を目指す意味から,英語ボランティアなどは今後地域との連携をめざす一つのきっかけになると思われる。

 自己紹介のメールは,カナダのWawanesa School の子ども達は一人ひとり思い思いに英文で書き綴っていたが,エクアドルの Evergreen International School からは電話回線の不調から連絡がとれないというアクシデントもあったが,なんとか交流の第一歩を踏み出すことができた。自己紹介をしているうちに,子ども達は相手の学校の国の位置を知りたくなったり,テレビや新聞で国名をみつけて自慢したりする光景も見受けられた。

3.事務局との二人三脚

 そして,3校のテーマの絞り込みの段階では,指導者を窓口にしながらそれぞれの学校の意見を交換して,『学校生活』をテーマに作品を作ることになった。

 うちの学校では,作業の時間をどう位置づけるかが校長先生と問題になった。作品の全体構成や班ごとの分担などの話し合いは学級活動で行い,制作は主に休み時間や放課後を活用したが,操作を覚える時間や班毎の途中経過を見たりする時間は授業中(国語や図工)に設定した。教室にパソコンが1台でもあれば暇をみつけて短い時間でも取り組めるが,パソコンが離れた教室にまとまって設置してある本校では,情報教育を進めていく時パソコンの配置の仕方を今後は考慮していく必要があると感じている。

 また,このバーチャルクラスルーム・オン・ザ・ネットでは,事務局の方 々のサポートが大きな力となった。54クラスを数人で分担しているようであったが,電話や電子メールでの問い合わせには機敏に対応してもらった。例として,私のメールへの返信の一部を紹介したい。

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> 先週ぐらいから私も含めてテーマに関するレスがなくなりました。本校か  
>らは2校 に提案したつもりで待っていたつもりでしたが,少々焦ってきま 
>した。

 テーマについてですが、Canadaからはすでに絵本でOKというメッセージ
がテーマの部屋にありました。ただ、すでにWawanesaの生活についてクラ
スで情報を集めており、Workの部屋へも貼っている様子です。 

 今日メールで高橋先生からのメッセージを伝えるとともに、すでに集めてい
らっしゃるWawanesaの生活についての情報をもとに絵本制作が可能かどう
か聞きました。返事はVC-18へ貼っていただくよにお願いしてあります。

Ecuadorからは以前コーディネータールームへ”環境”についていくつかの
アイディアが提案されていました。 

 日本では小学校で英語を習っていないこともあり、研究を主体としたものよ
りは身近かなテーマで絵を使って表現できた方が子供達も参加しやすいという
旨をメールで伝えました。 Canadaと同じく、返事はVC-18へ貼っていただ
くようにお願いしました。

 時差や文化の差もある3校での話し合いはなかなかスムーズにいかないこと
もあり、困難だと思いますが、それだけにうまくコミュニケーションがとれて、
協力出来たときの喜びも大きいかと思います。

 私の方でも積極的にサポートをさせていただきますので、また何かありまし
たらおっしゃってください。
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 このような事務局の方の協力体制があったからこそ,途中で挫折などせず最後まで作品の制作することができた。事務局の方が相手の学校との仲介役に立って,私の英文で表現の足りない部分を補ってもらうことで,相手方とのコミュニケーションをとることができた。このプロジェクトに参加する場合は,指導者が自分でホームページを作った経験があることが最低条件である。しかし,指導者がホームページ作成ソフトを操作できる程度の力があれば,事務局の支援を受けて,誰でも参加できると思う。

4.アナログとデジタル

 次は,いよいよ作品の制作である。先にも述べたように子ども達の制作の時間は授業時間を当てない方針だったので,時間の短縮を考える必要があった。学校にはパソコンが6台しかないので,休み時間もそう自由にうちのクラスだけが使うこともできない。

 そこで,すべての作品をパソコンで作ることはやめ,画用紙にかきたい班の作品は後でスキャナーで読み取ることにし,その選択は子ども達にさせた。このことは,私の陥っていた「インターネット=デジタル」という狭い考え方を一掃させてくれる結果となった。

 子ども達が世界中の人に見られるからと,一字一字ていねいに書く様子は担任とした微笑ましくもあり,意外な結果だった。マウスでまねできない一人ひとりの個性のある線は,やはり手描きのもつ良さであり,デジタル化させた時代だからこそ,風化させないようにしなければならないと考えを新たにした。

 学校にはお絵描きソフトの「キッドピクス」と「キッドピクススタジオ」がある。「キッドピクス」には漢字はなかったが,「キッドピクススタジオ」にはスタンプの中に小学校の3年生程度の漢字が入っていた。3年生くらいならキーボードからの文字入力を無理強いしなくても,スタンプで文章をつくる程度で十分だと思った。

 また,学校にはスキャナーがないので,画像データにする処理を保護者に外注して分業化を図った。おかげで,保護者の方にも少しずつ関心をもっていただけるようになり,応援もしていただいた。このプロジェクトがきっかけで,保護者と担任の絆が以前に比べて太くなったことは間違いない。

5.ゴールはしたものの

 作品の締め切り三日前にやっと本校の作品ができ上がり,他の2校の作品とリンクさせるだけの状態になっていた。ところが,そんな時に残念なメールが届いてしまった。

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担当のBonnie Turner先生の話によりますと、どうやら勘違いをされていた
様で、このWork Roomに貼った作品について相手校から全くコメントが
なかったのでどのように進めていいのか分からず、活動がストップしていた
そうです。
グループで共同の作品(Web)を作るという点を理解されていない様ですので、
メールでもう一度活動の進め方について説明を送りました。
また豊田小学校さんの方ですでに最初のページを作り、作品もuploadされて
いる旨を伝えました。

さて、エクアドルですが去年末から国の状況が悪化して電気が使えない環境
となってしまいバーチャルクラスルームの活動の方もストップしていました。

私共の方からたびたびメールを送っても(当然ながら)返事はなく、また電
話も通じなかった状況でしたが、ようやく以下のようなメールがきました。
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 結局,私たちのクラス(VC-18)では,本校しかインターネット上に作品を公開することができなかった。しかし,子ども達は自分達が世界中の人々に情報を発進することができたことを心から喜んでいた。これは,一つの目的をみんなで最後まで成し遂げることができたという充実感だったと思われる。

 プロジェクトに参加した学校でさえ,このようなことが起きるのだから,インターネットの教育利用を広く普及させていくには,解決しなければならない問題がまだかなり残っている。他の学校に先駆けて実践している学校や先生方の失敗例や成功例が,これからの情報教育の発展に欠かすことのできない財産であると考えると,今回の本校の事例も何らかの教訓になれば幸いである。

 今回のバーチャルクラスルーム・オン・ザ・ネットの本校の作品は,次の場所で見ることができます。

http://www.jp.kids-commons.net/vc96/vc-18/index.html

6.終りに

 このプロジェクトは,今年も実施されるようである。私は昨年度の経験を活かして今年度も参加したいと考えている。参加するのであれば,今年度は入賞を目標にがんばってみるつもりである。


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